「ミキ」と母の涙・・・

 
昔、狆(ちん)を飼っていた。
母犬の名は、「ラン」といった。
当時は、アイドル♪「キャンディーズ」が一世を風靡していた頃。
「ミキ」と名づけたその犬は、おじいさんをチャンピョン犬に持つ賢い犬だった。

今ほどには犬・猫の室内飼いが、まだ徹底されていなかった時代のこと。
「ミキ」は、毎日家の中でだいたいを過ごしながら、その周りや庭先でも自由に遊んだりして日々を暮していた。
田舎だったので、車などの危険がほとんどなかったのである。

「ミキ」は家族の中でも、母に特別なついていた。
母は、「ミキ」をわが家に一番はじめに連れ帰った人でもあった。
旅行など長期の不在から母が帰ってくると、「ミキ」はくるくると何度も回って、体をよじらせて、全身で大喜び!をしたものだ。
その顔は、笑顔いっぱい♪にあふれていた。
くしゃくしゃの顔をもっとくしゃくしゃにして、うれしがった。

ある時、わたしが学校から戻ると、母が泣いていた。
声をしゃくり上げて、泣いていた。
理由はこうだった・・・

母が勤めから帰ると、「ミキ」の姿がない。
家じゅうそこらじゅう、さがしても見当たらない。
その日は、激しい夕立でカミナリがものすごかった。
カミナリが大の苦手だった「ミキ」・・・
いったいどこにいってしまったの・・・!
母は、夢中で近所をさがし回った。
さがしてさがして・・・やっと見つかった!

「ミキ」は、家からかなり離れた「水車小屋」の中で発見された。
昔は、水車が回る力で穀物をひいていた。
誰も使わなくなった小さな木の小屋。

ひとり留守番をしていて怖くなった「ミキ」は、そこに隠れていたのだった。
母は号泣しながら、おびえきった「ミキ」をしっかり抱いて家に連れ帰った。
あの時の、尋常でない母の泣く声は、今でも鮮明に覚えている。

またある時、母が、家からかなり走って県道に出たころ、ふと車のサイドミラーを見ると・・・
そこには、体をまるめて長い毛をうんとなびかせながら、全速力で追いかけてくる「ミキ」の姿が・・・!

びっくりした母は、急いで車から降りて「ミキ」を助手席に乗せ、またまた号泣したのだった。
母と車がほんとに大好き♪だった「ミキ」・・・

15歳までせいいっぱい生きて、今はお花畑の下で眠っている。
あれから犬を飼ったことは、わが家では一度もないままだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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